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  「ル・ピアニスト」は見ても人生が変わらない

トゥールーズ (フランス)

 


Adrien Brody の演技はすばらしい

 

邦題は「戦場のピアニスト」になるのだろうか。 「ル・ピアニスト Le Pianiste」を見てきた。今年のカンヌでパルムドールに輝いた作品だ。しかも監督は、あの生きる伝説、ロマン・ポランスキーだ。

ところが、これにはがっかりした。見ても人生が変わらない作品だ。

パルムドールを取る作品は、たいてい、見ると人生が変わる。それが大げさなら、見ることによって世界や人生と向き合う別の方法に気づかせてくれるといってもいいだろう。少なくとも、ほんの一瞬でもそういう気持ちにさせてくれる作品だけが、パルムドールに輝く資格があった。

この映画は、一瞬として、そういう錯覚を抱くことすらできない。

物語は1938年のワルシャワに始まる。つつましやかながら家族と幸福に暮らすユダヤ人ピアニスト、スピールマン。やがてナチスが侵攻し、彼らに対する迫害が始まる。彼らはゲットーへ、そして絶滅収容所へと追われる。だが、スピールマンだけ、ナチスに協力しているユダヤ人の知り合いに助けられる。ここから先、終戦までの彼の生き残りへの本能的闘いが描かれていく。

慎重にメッセージ性を排除して、生きようとする意志すら表明させない演出は独特のものだ。本能的な食欲のみが強調される。音楽家であることのこだわりも描かれず、ピアノへの渇望も描かれない。いくつかの偶然と他人からの援助によって生き延びていく、それだけのことだ。

外側がどうなっているのかも描写しない。彼にとっての世界は、病院のすりガラスの割れ目から覗いた道路のようなものだけなのだ。

終戦まで生き延びた彼は、オーケストラをバックにピアノを演奏し喝采を浴びる。これではまるでなにもかもが元通りになったかのように見えてしまう。全ての家族を失った彼を描くのに妥当な表現なのだろうか。演奏のなかに彼の孤独を聞き分けろとでもいうのだろうか。

ポランスキーは、ナチスがポーランドに残した傷跡を、一人のピアニストの個人的な事跡として描くことによって、ずいぶんと矮小なものにしてしまった。そして、その矮小さこそ、幾度と無く描かれ続けてきたこのテーマを繰り返すこの作品における、唯一の新しさだったのだ。(ポランスキーにとって他人事ではないという事情もわかるが)

結局のところ、こんな人がいました。うまく逃げ延びて、ナチスが負けるまで隠れてました。それだけの話だ。

映画祭では「ホロコースト・プレミア」というものがあるが、これにはさらに「ポーランド・プレミア」が付け加わって、実際以上の評価を受けているのではないだろうか。デイビッド・リンチが審査委員長を務めた今年のパルムドールは、裁判のために帰国しなけらばならないポランスキーに対する諧謔だとしか思えない。

ところで、日本での「戦場のピアニスト」というタイトルはまったくまとはずれだ。この作品には「戦場」という言葉の持つ勇壮さはかけらもない。そして、ワルシャワは戦場などではなかった。ドイツ人にとっては狩猟場、ユダヤ人にとっては堵殺場だったのだ。

 

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