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   アウシュヴィッツ

走行距離 6670km
訪問都市     16

 Auschwitz
(ポーランド)

 

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* 負の世界遺産、どこにも属さない場所


長年の希望がかない、ついに訪れることができた


ハーケンクロイツをかたどった、犠牲者の像


アウシュヴィッツTの全体図。かなり広い


入り口には、Arbeit Macht Frei (労働が自由をもたらす)のスローガンが


バラックは赤いレンガ造り


理路整然と並んでいる


それぞれのバラックにはナンバーが振られている


収容者用の三段ベッド


10号棟と11号棟の間には、大勢が銃殺された「死の壁」がある


厳重にフェンスで囲まれた敷地


ガス室の入り口。中は、おぞましいとしか言いようがない


人の髪から作られた布


バラック内はきれいに修復され、さまざまな展示で悲劇をたどることができる

 

アウシュシッツT

わざわざ北側を大きく回るルートを取ってポーランドを通過したのは、ここを訪れたかったからだ。クラコフから車で90キロ、オシュフェーンシンという小さな街の片隅に、かつての絶滅収容所は残されている。

アウシュヴィッツがポーランドにあると言うと、多くの人が驚く。アウシュヴィッツを知らない人はいないが、どこにあるのかは意外なほど知られていない。なぜだろう?

ナチスの持つ透明なまでに絶対的な悪の響きと重なって、アウシュヴィッツはこの世界のどこにも属さない場所、むしろ天上の世界に近い場所のような気がするのではないだろうか。

だから、もしアウシュヴィッツが「ドイツにある」「ハンガリーにある」「イタリアにある」と言われても、驚きはするが、疑いはしないだろう。

ぼくも、長い間、それがどこにあるのか知らなかった。だから、クラコフという美しい古都からさほど遠くない場所に、それが実在していることを知ったときには、相当なショックを受けた。

実際、ここを訪れてみると、それはごく普通に人が生活している街のすぐそばにあって、決して灼熱の砂漠や、極寒のシベリアにあるのではないという、ありきたりさに落ち着かない思いがした。

アウシュヴィッツ、それは人間の残酷さと愚かさを表す代名詞のようなものだ。その名の持つ特別な意味合いから、どこか遠い遠い、簡単にはたどりつけないような特殊な世界にあってほしいと、そう願っていたのかもしれない。

さて、ここは入場無料で、広大な敷地を自由に見て回ることができる。30余りものバラックと、ナチス将校たちのための施設や、ガス室など、多くの建物が残されており、自由に見学することができる。

バラックの内部はきれいに白く塗られており、様々な展示に使われている。例えば、収容者の生活風景、ナチスが行った残虐行為の記録、当時の各国のユダヤ人の状況などだ。展示は基本的に、ポーランド語、英語、ヘブライ語で行われている。

最も目をそむけたくなったものは、殺戮された人々の残した膨大な遺品の山だ。巨大な水槽のような空間に山と詰まれた靴、鞄、義足、髪の毛。この量のすさまじさは見てみなければわからない。

ナチスが収容所に送ったのはユダヤ人だけでなく、同性愛者や政治犯も含まれていた。また、ロマ(ジプシー)も大勢がここで犠牲になった。そのことがあまり知られていないのは、ロマの権利を代表する団体が存在しないからか、それとも、いまだに東欧を中心に彼らに対する根強い差別と偏見が残っているからか。あるバラックでは、ロマの犠牲を詳しく解説していた。

こんな感じで隅から隅まで歩いて回ると、あっという間に3時間が過ぎてしまった。ちなみに、各所に解説が置かれているが、ちょっとしたガイドブックが3ズローチで買えるので、手に入れておいた方がいい。広大な敷地で迷わないために、このガイドブックの地図は役立つ。

 


アウシュヴィッツUの全体写真。175ヘクタール、300のバラック、4つの巨大なガス室


中から入り口を見たところ。犠牲者は鉄道に乗ってガス室のすぐ隣に到着する


バラックの様子


あるバラックの内部には、囚人が書いた絵が残されている


バラックの内部


トイレ棟


洗面台の棟


崩壊したガス室


記念碑には花が絶えない


のどかな林、と思ったら、ガス室が満員で自分たちの順番を待つ人々の写真が…

 

アウシュヴィッツU(ビルケナウ)

さらに悲惨な場所は、ビルケナウ、通称アウシュヴィッツUの方だろう。

アウシュヴィッツTは、ユダヤ人の絶滅を目指したものではなく、監獄と強制労働の施設として作られた。それがやがて、ユダヤ人を絶滅させるというナチスの方針から、いかに効率的に大量の人間を殺すことができるかということに目的が移っていく。

そして、アウシュヴィッツから3キロ離れた場所に造られたのが、この広大なビルケナウだ。ここでは徹底して人間を効率的に処理するよう設計されている。

まず犠牲者たちは鉄道で到着する。その風景は映画でも何度も目にしたことがあるが、座る場所もないほど貨物列車に詰め込まれ、到着時にはすでに多くの人が死んでいるのだ。

鉄道は、ビルケナウの奥にあるガス室のすぐ横に到着する。ここで選別が行われる。労働に適した者はバラックに送られ、強制労働と栄養不足による、ゆっくりとした死が与えられる。それ以外の者は、すぐにガス室に送られる。75%が、即座に抹殺されたという。

大きなガス室は4つあり、ひとつのガス室には2000人が入ることができたが、いつも満員だった。だから、常に外には順番を待つ人たちが列を成していた。

ガス室も効率的に造られている。最初の部屋で服を脱がせ、所持品を剥奪する。ガス室の脇には焼却炉があり、死体の移動距離が短くてすむようになっている。実際は焼却炉をフルに稼動させても処理が間に合わず、野焼きをしたり、そのまま埋めたりもした。

この広大な敷地をぼくはひたすら歩き回った。完全な形で残された施設もあれば、敗走するSSが破壊して行った施設もある。

歩き疲れて疲労感が高まると、緑に囲まれたこの場所が何だったのかを忘れ、静かな田園にピクニックに来たかのような錯覚を覚えた。だが、ひとたびバラックの中に足を踏み入れれば、そこには極限状態ともいえる悲惨な状況を目の当たりにする。外と中のこの落差はいったい何だろう。静かな林、青々とした芝生。

 

 

 

 

 


イスラエルの腕章が落ちていた。単なる落し物だが、どことなくショッキングだ

 

ここに来て感じたことは、悲劇は風化する、ということだ。アウシュヴィッツは「負の世界遺産」に登録され、懸命な努力で維持されている。

だが、悲劇は風化する。それは木が朽ちるとか、屋根が落ちるとか、そういう意味ではない。世界は美しく、人の気持ちは優しい。だから、忘れていくのだ。紛争や迫害のさなかにある者以外は、そのことを忘れていくのだ。

「歴史から学ばぬ者は、それを繰り返す」

フランス語のクラスで、「現在と祖父母の時代とどちらが好きか」というテーマでディスカッションを行ったことがある。ぼくは、当然、平和で豊かな現代がいいと言った。すると、チェチェン出身の若者が、「それは君の国の話に過ぎない」と言ったことを思い出した。

我々がしなければならないことは、ナチスを「悪」、ユダヤ人を「被害者」と叫び続けることではない。今、この世界で起こっている同じような悲劇を知り、考え、行動することだ。犠牲者の冥福を祈るだけでは十分ではない。

アウシュヴィッツはこの世のどこにも所属しない。そして、あらゆる場所にアウシュヴィッツは存在し得るのだ。

 

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